元演劇部が考察する「バーチャルさんはみている」が「文化祭のクラス演劇」みたいになったのが必然だという話

「舞台って記憶しか残さないから素敵なんだと思うの」            百名哲著「演劇部5分前」(エンターブレイン、2012年)より

唐突なのだが、皆さんはバーチャルYouTuberをご存じだろうか?
簡単に言うと3Dアバター(まれに2Dもいる)を用いた動画配信者のことを指す。
バーチャルYouTuberの総数は2018年9月時点で5000人を突破しており、見る側だけでなくやる側も増えている、昨今インターネットで人気なジャンルの一つといっても良いだろう。
そんな今熱いジャンルのバーチャルYouTuberが今年、アニメ化している。
「バーチャルさんはみている」である。(以下リンク)





実はこのバーチャルさんはみている、ネットで評価を見るとかなりの賛否両論。
ちょっと気になって調べてみると気になる評価がSNSには記されていた。

「まるで文化祭でやっているクラスの劇みたいだった」

なかなか見ない評価の仕方だ。しかし、この評価を見て自分はこのアニメが気になってしまった。
自分は高校生の時に演劇部に所属しており、たった3年間とは言え青春を謳歌していた。
だからこそ、「クラスの劇みたいなアニメ」が気になってしょうがなかった。
なので私はさっそく視聴し、それと同時に何が「文化祭のクラスの劇」みたいなのかを考えていた。



……
………

視聴終了



見終わった身体に妙な高揚感と脱力感。間違いない、これは「文化祭のクラスの演劇」だわ。
しかもクラス演劇にあえてしたというよりクラス演劇になってしまったという必然性を感じた。

恐らく視聴した方々の一部も「クラスの演劇」という感想を抱いていると思うのですが、なぜそう見えるのかを一つ一つ元演劇部なりに解説していこう。(注釈:筆者はバーチャルYouTuberをほとんど見ていません)



00:00~ ばあちゃるのナレーション

しょっぱなから凄く文化祭のクラス演劇。
と言うのも、ここの時点で多くのアニメ作品やドラマ等のフィクション作品とは違うキャラ紹介の手法を使っているんですね。
ごく普通のフィクション作品は「本筋を進めながらセリフ等で自然にキャラ紹介をする」か、「本筋中に主人公のモノローグで語り部として紹介する」なんですね。
そして高校生の演劇部(以下学生演劇と記す)でのキャラ紹介も同じような手法を使用することが多い。台本が自作とかだと「部活に新入部員が入ってくる」「何か委員会を初めて行う」が良く使用される。
つまり、必然的にキャラ自ら自己紹介をする状態を作るというのが妥当なんですね。

しかし、このバーチャルさんはみているはクラス演劇!
クラス演劇でのあるある(一年間で必ずクラス演劇を見ている自分が言うから多分間違いない)として「ナレーター」という役職が存在するという点。
普段から演劇をやっていない人間、そして脚本を書きなれてない人間がキャラの印象や世界観を明確に観ている方々に伝えるのはすごく難しい。そうなると「ナレーター」という役職を作るのが一番楽なんですよね。それが今回のばあちゃる(馬マスクの人)。

そしてこれは個人的な感想ではあるんですけど、喋り方が本当に「文化祭のクラスの演劇のナレーターを任せられた男子高校生」なんですよ。
特に「今日もバーチャル界は楽しいことになりそうですね!」の言い方がすごくソレ!!
この時点でもうクラス演劇感がマッハなんですよ。




03:11~ オープニング

これはいちゃもんに近いんですけど「オープニングの曲が開場から開演までに流す曲感」がある。
文化祭でのクラス演劇としてシリアスなものを用意する所は少ないというより無いに等しく、必然的に待っている間に聞かせる曲は明るい曲になるんですね。
でも、熱くて盛り上がる曲はそれはそれで違う(これは高校演劇でもよくあるんですけど、劇がよほど熱いものじゃないと無理)ので、結果的に一番多いのは明るくて柔らかい感じ、もしくはカッコイイ曲になるんですね。
なので年に一つは待ちの間にきゃりーぱみゅぱみゅperfumeを流すクラス演劇は必ず一校はあります。これは間違いありません。
なのでこのオープニングも少なからず、クラス演劇を感じさせる一つの要因になっているのかなぁ




04:52~ タイトルコール(アイキャッチ?)

クラスの人気者のギャグを見ている気分。
クラスカースト上位のギャグや名言を入れるのはクラス演劇では必然です。




04:59~ VIRTUAL WARS

私は見終わってから「あ、ゲーム部っていうのが実際にいるのね」ってことに気づきました。
因みにこのシーンが一番「演劇っぽい」と言われてるっぽいですね。まぁ一番わかりやすいですし。
このシーンというかコーナーは他のシーンと比べても特にカメラが固定というか一つの面方向なんですね。劇でいうところの客のいる方向。宇宙船の操縦席側にカメラが回ることはないんです。
後これはクラス演劇というわけではないんですけど、驚異的に位置が被らないんです。



あ、これ俺も見たことあるしやったことある劇だ!!ってなるくらい横並びで奥行きとかも活用した立ち位置。横並びだと作り物過ぎるから奥行きも4人が一緒の軸にはならないようにするのは当時よく言われたものです。




07:13~ バーチャルグランドマザー

小林幸子のターン
ここはあまり演劇っぽくないんですけど、あえて挙げるとしたら「クラス演劇に関する大人」「いらすとや」ですかね。

クラス演劇では半分くらいの確立で「先生ネタ」が入ります。先生のモノマネや迷言が入るやつですね。まれに先生本人が出たりします。本当にまれです。これはなんでかっっていうと先生のモノマネをクラス内だけでなく世間に広めるというのが一種の「内輪的なタブー」だから。
このコーナーはある意味それに近いモノがあって、小林幸子がアニメに出てるだけで面白いという発想なんですよ。

で、いらすとやに関してはインターネットにも存在する「有名フリー素材だからこそ、いっぱい使えば面白い」という発想から来てると思います。因みに文化祭全体で見るとポスターに使うところも増えてきました。まぁ今でも一強は担任の顔をフリー素材みたいに使う、ですけど。仰がないし、尊わない。




08:26~  タイトルコール(アイキャッチ?)

今でも演劇でツンデレ表現をいれると大抵これになります。
なにぶん、このセリフ応用が一番色々な人に伝わりやすいもので……




08:32~ レッツゴー!教室

バーチャルYoutuberをほとんど観ていない自分が一番バーチャルYoutuberのアニメっぽいなぁ」と感じたコーナー。
・キャラが喋るシーンのほとんどがキャラにアップしたカメラ
・固定ではなく手持ちカメラのような動きをする。
・設定が突飛だがバーチャル空間だからある意味不自然は無い
と他のアニメには簡単にはできない「バーチャルYoutuber感」がある!!

あえてクラス演劇っぽい所を挙げるとしても「水素の音みたいな時事ネタを入れる」くらいしかない。(時事ネタはすぐに風化するぞ)


ちなみに見直して気付いたんですけど、コーナー全体が上手い具合にキャラ紹介パートに近いものになってるんですよね。猫宮ひなたがゲームについて話してたり、月ノ美兎の清楚ネタとか。なんでこれを一番最初にもってこなかったんだ……?




08:26~  タイトルコール(アイキャッチ?)

さては本人モーションじゃねぇな!?




11:08~ 富士あおいパーク

3Dと2Dの融合、カメラが大変そう。
このコーナーは富士葵さんの「高すぎ~~」が凄くクラス演劇感があった。
多分クラスで週1くらいやってるネタ。いや、実際は違うんだろうけど。

因みに富士葵さんといえばTGS2018にも来てましたね、というよりSmarpriseは殆ど「富士葵ブース」でしたね。ゲームショウとはいったい……?





11:44~ てーへんだ!アカリちゃん

スローモーションで笑えるのは若さの特権だぞ
という冗談はおいておいて、

このコーナーもバーチャルYouTuberらしさを推したコーナーですよね。
バーチャルYouTuber特有の視聴者とのコミュニケーションをアニメ化している。
因みにこのコーナー以前からあってここが凄くわかりやすいので話すんですけど「キャラがやけに動く」んですよね、このアニメ。
バーチャルYouTuberモーションキャプチャー等で動きにリアリティがあるというのを推したいというのもある……のかもしれないですけど、今回はクラス演劇方向から。

学生演劇等で動きが無い……つまり棒立ちというのは、それなりに苦痛というか見栄えが悪くみえてしまうという流れがあるんですね。なのでポーズを変えたりとか、何か作業をしているようにするとか、喋らないシーンでも動くようにする。本来ならそういう時に気が散るような大きな動きはしないようにするんですけど、クラス演劇ではそういうのはないです。
でも今作は全員の動きが大きいから問題ないのかな……?




14:25~ ひなたちゃんは登校中

前に一度、理系の男子の多い高校の文化祭の劇を見たことがあるんですけど、ゲームネタが多かったです。分かる人は面白い要素だと思うので良いと思います。




15:30~ タイトルコール(アイキャッチ?)

この一ミリも初見に伝わらないことをやる感じ!!まさに文化祭のノリ!!!




15:35~ うんちく横丁

これに関してはクラス演劇じゃなくて一昔前のバラエティ番組のワンコーナーみたいですよね。ためになるなー。




16:31~ みんなのバーチャルさんはみている
視聴者からの応募コーナー。ニコニコ関連系は動画投稿サイトということもあってこういうのがよく合って、バラエティだとドリームクリエイターとかそうですね。




16:45~ 委員長、3時です。

場所が教室で若干暗かったりと、セットがガチの文化祭クラス演劇になってるコーナー
後カメラもVIRTUAL WARSと同じく一面方向ですね。うーん、ぱっと見はやはりクラス演劇だ。
内容としては若干内輪ネタに走りそうになったんですけど、そこ当たりは月ノ美兎さんが開設してるので、しっかりしてる方なんだろうなぁ……まぁコーナー自体のオチが雑なのはクラス演劇っぽいですけど。




18:34~ ユニティちゃんはコロがりたい

来ました、このアニメで一番異質の存在。出来が違いすぎる!
何故このコーナーだけ違う感じなのかというと、ここだけ制作をジェムドロップという会社がやってるんですね。ちなみに後ろをよく見るとジェムドロップが発売しているゲームのキャラクターがいます。PSVRで好評配信中の「ヘディング工場」は名作なのでぜひ皆さま遊んでください。てか冷静に見たら、これモーションキャプチャとか関係ないコーナーじゃね?




19:05~ ケリンスレイヤー

流行ってるアニメや漫画のパロはクラス演劇だけでなくどの分野でも鉄板!!
後半の絵コンテで笑わせる文化は「こち亀」や「銀魂」、最近だと「SNSポリス」でありましたね。




20:30~ 聞いてよ しすたぁ!

ここのコーナーだけでは無いんですけど、キャラの扱いとして男性キャラは幸せな出来事に遭遇しないんですよね。これも非常にクラス演劇&学生演劇の一部文化に似ているものがあって、女性の方が強い傾向があるんですね。学生演劇だとまず女性部員が多い場合もあるので、男性役はあまり作品内では良い目を見ないし、下手したら出ないときもある。クラス演劇なんかだと役だけでなくリアルな男性の方でも被害にあう場合があります。いわゆる「男子が女装してるだけで面白いでしょ案」です。まぁ実際女子が男装してもカッコいいとかで面白い結果になることは早々無いですからね。
バーチャルYouTuberは現状でも女性キャラが多いので、このコーナーみたいに男性キャラが吹き飛ばされる演出もある意味起こるべくして起こってるんですな。




21:24~ エンドコーナー
お便りで皆で雑談するのはバーチャルYoutuberのコラボ配信っぽくて良いですよね。
ただ実はここにもクラス演劇、そして学生演劇っぽい点が。


エンディング前の最後のシーン、というかこのコーナー一連の立ち位置は今までの演劇的シーンで用いていた奥行きを一切使ってない横一列の並びなんですね。
これ、演劇的で考えると納得できるんですね。だって演劇はほぼ必ず最後の挨拶はキャストが横並びで並んで挨拶するから。よくよく見ると彼女たちの前側は床の色が変わってるんですね、これこそ客と演者の境界線なのかもしれません。






以上が今回の第一話を見て言いたくなった点だ。いかがだったろうか?
何故「文化祭のクラスの演劇っぽい」のかが文字に起こすと分かりやすくなったのではないだろうか?


・では何故このアニメはクラス演劇のような作りになったのか


私は最初に、こうなったのは必然であると言いました。なぜ必然なのかというと……

バーチャルYouTuberという文化自体が演劇的な作りに似ているから



なんですね。「いきなり何言ってんだ」と思われるかもしれないですが、個人的にそう感じているポイントを3つ話しますね。




バーチャルYoutuberは他の配信者に比べて演じる度が高い


ファンの方が呼んでいたら、夢を壊すようで悪いのですが配信者ってのは何かしら演じる場合が多いんですね。軽いものではハンドルネームなんてのも自分とは違うものを演じるに近いものですからね。
ただバーチャルYoutuberっていうのはそれ以上に演じる度合いが高いんですね。だってまず見た目が異なるんだもの。そりゃ演じる度も高いでしょ。(ファンの方々、本当に申し訳ありません。)自分とは違う人物になる。ある意味、「オリジナルキャラのなりきりチャットに似た世界だと自分は感じました。




バーチャルYoutuberはキャラを濃くせざるを得ない


バーチャルYoutuber多き現代、キャラは濃くするのが当たり前なんですね。これは生き抜くためには必須なことです。
で、これの何処が学生演劇っぽいのかというと、学生がよくやる台本、もしくは学生が作る台本は基本的にキャラに一つの強い個性を与えている場合が多いんですね。
これは実際見てみると早いんですが、学生演劇部の多くが利用している「はりこのトラの穴」という台本や脚本の配布サイトを見てみましょう。
適当にタイトルを選んで下側にある「冒頭を読む」をクリックすると最初だけ読めるので見ていただきたいんですけど……大体の脚本は本文より先に登場人物一覧があると思います。
そしてその登場人物の紹介が大抵の場合は書かれているのですが……1文から2文で書かれるのがほとんどです。つまりどういうことかというと学生演劇もバーチャルYouTuberキャラの個性を一文で書けるくらいがお互い丁度いいという事なんです。演じる側も苦労は比較的少ないし、見る側も分かりやすいんですね。



バーチャルYoutuberはアドリブ力が必要


これは言わずもがな何ですが、バーチャルYouTuberの活動は動画だけでなく生放送も重要なんですね。そしてこの生放送もゲームやる分にはいつも通りに近い状態でも良いのですが、視聴者のファンとの交流が重要視されるラジオ的な配信だと求められるアドリブ力は凄い高くなります。
アドリブ力と演劇の関係性は……まぁ言わなくても分かりますよね。どちらとも少なからず求められるということです。




以上3つの点から、バーチャルYouTuberという文化自体が演劇に近い状態になってるんですね。
でもなんで普通の劇じゃなくてあんな形のアニメに?ってなるんですけど……冷静に考えてみるとそれも分からなくはないんです。何故なら……

今回のアニメに出ているキャストが全員有名で主役級のバーチャルYouTuberだから

この一言に尽きます。これって学生演劇でいうと

今回のクラスの出し物の劇に出るのは役者が全員人気の高いスクールカースト上位者

ってことなんですね。じゃあそうなった場合文化祭でやる劇の台本で一つの道として出てくるのが

全員見せ場がそれぞれ会うシナリオの演劇

になるわけです。なので今回のアニメが文化祭のクラスでやる演劇みたいな作りで、様々なコーナーが一つの枠にいくつか用意されているのは以上の流れがあったから必然的である……とも言えなくはないのです。



長々と書きましたが、最後に。
皆さんはこのアニメを見てどう思われましたか?
面白かった?それともつまらなかった?ノリがつらくて見るに堪えなかった?
色々あると思います。

個人的に、自分は非常に楽しめました。何故なら凄く「文化祭のクラスの劇」だったから。
演劇部として劇をやっている時、クラスでやってる劇はある意味ではライバルであり、憎い存在として取られる時もありました。まぁかけた努力と来場者数を対比したら、そう思うのも分からなくはないです。

ただ、クラスでやる劇にはそれにしかない持ち味があって「若気の至り」とかそういうのとはちょっと違う「若い力」を感じるんですよね。それは後に黒歴史といわれるかもしれないけど、その時にしかできない作品であることは間違いありません。
同じものは二度と見れない、それが演劇の良さなのだから……